投稿者
 メール
  題名
  内容 入力補助画像・ファイル<IMG>タグが利用可能です。(詳細)
    
 URL
[ ケータイで使う ] [ BBSティッカー ] [ 書込み通知 ]

スレッド一覧

  1. ぽろりっ(0)
スレッド一覧(全1)  他のスレッドを探す 

*掲示板をお持ちでない方へ、まずは掲示板を作成しましょう。無料掲示板作成


小さい頃の夏

 投稿者:前田  投稿日:2017年 7月26日(水)06時25分27秒
編集済
  ぼくの小学校二年生、昭和二十三年(一九四八年)年時分の夏の光景である。ぼくは夏のあいだは毎日のように、わが家の裏に流れている「内田川」(熊本県北部地域にある旧内田村、現在菊鹿町)で、黒光りする西瓜腹を太陽に晒していた。特に、夏休み中にあっては朝っぱらから猿股パンツさえ穿かず真っ裸で、ほぼ一日じゅう川遊びにほうけていた。主な川遊びは、魚取りと水泳の繰り返しだった。これらに疲れたり、寒さで身がぶるぶると震え出すと、川中の岩石に腹這いになり、これまた甲羅干しを繰り返した。濡れた背中を焼けつくような陽射しがじりじりと照りつける。すぐに水分は乾き、たちまち汗が噴き出た。たまらず、また水中に飛び込んだ。水しぶきが上がる。昼御飯と茶上がり時(三時のおやつ)にはわが家へ帰るけれど、それらが済むとまた川中へ走り込んだ。こんなことを繰り返していると、夕焼けが赤く西空を染めていた。ぼくの飛び込む間隙に、のどかに泳いでいたメダカや小魚たちは、飛び込む波紋に追われるように、石の下や淀みの草陰に逃避した。ぼくは小学一年生のときには、夏休み明け後にあって、「肌焼き大会・一等賞」をとっていた。このため、父と母そして兄姉たちは、「ことしも一等賞まちがいないね!」と言って、からかっていた。ぼくは、また一等賞をとりたいと思っていた。だから、川遊びで真っ黒になるのを願っていた。ぼくは飛び込むと立ち泳ぎで、坊主頭を水面からネギ坊主みたいにまっすぐに立て、自慢そうに仲間たちの方を見やった。すると、仲間の一人が続いて、ぼくの脇に飛び込んだ。すぐにほかの仲間たちも真似て、次々に飛び込んだ。遊び仲間に、競争心理が働き始めていたのである。青い空、黒い顔、白い歯、そして水しぶき、太陽と水のおりなす光景がかがやいていた。山河と真夏の太陽を友として、屈託のない童心が弾けていた。四囲を見渡せば、近場の緑には陽炎(かげろう)が立ち、遠くの山並みには霞がたなびいている。視界一面が陽射しには抗(あらが)えず、眠りこくっているようであった。ときにはぼくは、精米所を営む生業(なりわい)を手伝って、精(しら)げた米俵をリヤカーに積んで、兄たちと配達に回った。五つ違いの良弘兄が前になり取っ手をとり、ぼくは後ろから力のかぎり押した。得意先の多い深瀬地区まで行くには、「尾の上坂」という、小石と砂利だらけの長いだらだら坂を越えねばならなかった。「尾の上坂」の途中、いちばんきつい所には、ご担任の渕上孝代先生の生家があった。このところで、兄はリヤカーを停めた。二人は、流れ出る汗玉をそれぞれの手拭いでぬぐった。夏の涼風が体をかすめるとぼくは、「良弘兄ちゃん、涼しいね!」と、言った。「うん。とても気持ちいいね。深瀬はもう近いから、頑張ろう」と、兄が勇気づけをした。深瀬地区には「深瀬の伯母さん」と呼んでいた母の姉の婚家や、同級生の渕上晴子さんの家などがあり、ほかにもわが家の得意先が多くあった。二人が気をとり直して再びリヤカーを動かし始めると、下の方からアイスキャンデー売りの鈴の音が近づいて来た。(絶対に買うものか……)。ぼくは耳を塞いだ。鈴の音を追っ払うかのように息を詰めて、目を瞑り、余計力をふりしぼり、むきになって米俵を押した。汗玉が砂利道にしたたり落ちた。(早く通り過ぎてくれよ!)。「きょうは、とてん暑かなあー。仲良く、お手伝いですか? あただ、偉かなあー……」。お顔見知りのアイスキャンデー売りの小父さんが声をかけた。小父さんは、買わない二人にあてがはずれた腹いせなのか、いっそう高くチリンチリンの音を鳴らした。小父さんはサドルから腰を浮かして、必死にペダルを踏んでいた。四角い箱の脇に立てた「アイスキャンデー」と染め抜いた幟旗(のぼりばた)は、風にはためいて遠ざかった。アイスキャンデー箱を積んだ自転車は、深瀬の方へは曲がらずに、まっすぐに番所地区を目指して上って行った。箱から落ちたばかりのアイスキャンデーのしずくが点々として、乾き始めていた。(困るなあー。帰りにまたキャンデー売りの小父さんに出会ったら……。また、我慢するのか。買いたいなー……)。そのとき、「しずよし、帰りにまたキャンデー屋さんに出遭ったら、こんどはキャンデー買おうかね」と、兄が言った。兄もまた、我慢していたのである。ぼくは、急に元気になった。帰りのキャンデー屋さんの自転車は、幟旗を横に倒して、鈴の音も鳴らさず、小父さんは無言のままに疾風(はやて)のように下り坂を下って行った。こんな光景は、わが家の玄関口でもよく母が演じていた。「売り切れたのかね。上りに買えばよかったね。あしたの上りに、買うとええたいね!」と言って、母はぼくの坊主頭をなでた。ぼくは、泣きべそをかいていた。母と父はもとより、良弘兄もこの世にいない。「小さい頃の夏」の思い出は寂しくなるばかりである。
 

夏真っ盛り

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月26日(水)05時49分0秒
   古閑さんちのお庭の花たちは元気ですね。夏の暑さも
なんのそのですね。その姿を眺めて暮らしておられる古
閑さんご夫婦は、元気ををもらっておられるんですね。
何かをやってやろうという気持を持って、神のみぞ知る
一生をケ・セラ・セラと生きておられる。花たちがそれ
を応援しているようです。
 

姉妹三人旅 縁(えにし)十三

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月26日(水)05時36分20秒
   玉造温泉に着くと、運転手さんは、海鮮丼の美味しい寿司や、
人気の石鹸を売っている店、日帰りが出来る温泉風呂、温泉を
容器に入れて持ち帰ることができる場所などを案内してくれた。
 私たちはまず少し早い昼食を食べに運転手さんおすすめの寿
司屋に向かった。タクシーで通ったときは通りを入って直ぐの
所に見えていたけれど、歩いてみるとだらだら坂をかなり上が
ったところにあった。客は誰もいなかった。妹二人はにぎり寿
司が食べたいと言う。私は運転手さんが折角薦めてくれたのだ
からと海鮮丼を注文した。しじみ汁があったのでそれも三つ頼
んだ。にぎり寿司は直ぐに出てきたが、海鮮丼は時間が掛かり、
出てきてびっくり、大きなどんぶりに具がはみ出していた。私
は半分ぐらい食べて、全部食べきれるか心配になった。妹たち
は美味しい美味しいといいながらにぎり寿司にシジミ汁をたい
らげた。しかし私は、まだ半分も食べきっていなかった。それ
でも最後の方は味も分からないくらい無理矢理口にほおばって
何とかお腹に押し込めたのだった。
 寿司屋を出てもと来た道を歩きながら、
「こんなにお腹がいっぱいだと温泉って気分にならないわ」
 と私が言うと、下の妹は、
「だからにぎり寿司にすれば良かったのよ。何のために玉造ま
で来たのよ。私は温泉に絶対に入るからね」
 と意気込んでいる。
「それじゃあ、天然の化粧水と言われる玉造温泉水で作った石
鹸が売れてる店に先に行こう。歩いていれば少しは腹ごなしに
なるわ」
 通りに面した店を見ながら歩き出した。
 

庭の花

 投稿者:古 閑  投稿日:2017年 7月25日(火)23時36分1秒
   我が家の狭い庭の花たちは暑さにも負けず
咲き誇っています。私は・・・暑さでグッタリです。

 私も、前田さんと同じ年齢、もういつお迎えが来るか
わからない齢になってしまいました。やはり身体の衰えは
相当にあり普段の生活においても実際に感じてもう先は
あまりないのではないか、と思うようなときもあります。
前田さんと同じ思いですが、しかし、やはり何かを
やってやろう、という気持ちは持っていたいものです。
遊びでもよし、わずかなことでも自分の気持ちの中で
持っていればいいのではないでしょうか。人の一生は
神のみぞ知る、です。それまでは、ケ・セラセラ。
 

お礼

 投稿者:前田  投稿日:2017年 7月25日(火)06時43分4秒
編集済
  『李』には人間の死に際にいたるまで、角田と涼子の優しさがたっぷりと
交錯していた。
それに、涼子の夫の優しさが加わっていた。すなわち、かぎりなく人間愛
が詰まった物語だった。
実際には恩師を慕い続ける大沢さまと、大沢さまの悲しみを支え続けられ
たご主人さまのご愛情ほとばしる実話だったのである。
完結に際し、人間の凄さと感動に浴したことにたいし、
心よりお礼を申し上げます。
 
    (管理人)  今朝、私の作品に対する素晴らしい読後感をいただき、身が引き締まる思いです。ありがとうございます。今はもう、小説作法などこだわらない書きたいものを書く心境になれたことに喜びを感じています。  

なさけない慨嘆

 投稿者:前田  投稿日:2017年 7月25日(火)06時01分14秒
編集済
  きのう(七月二十四日・月曜日)のテレビニュースでは、ことさらに二〇二〇年の「東京オリンピックおよびパラリンピック」の報道が目立っていた。おしなべてそれらの報道には、「東京オリンピックまであと三年」という、言葉が躍っていた。もちろんこの報道の背景には、二〇二〇年すなわち三年後のこの日が、「東京オリンピック」の開催日(開催式)に当たるからであった。このため、東京都をはじめ競技を受け持つ関係自治体は、いよいよ東京オリンピックおよびパラリンピックの盛り上げ態勢に入り、とりわけきのうはさまざまなイベント(行事)を催して、燥(はしゃ)いでいた。ところが、それらの映像を観ていた私は、もちろんは燥ぐ気分にはなれなかった。いや、実際のところわが胸中には、(三年後は八十歳か……)という、慨嘆が沸き立ち、寂しい気分が蔓延していた。確かに、わかりきっていることに今さら寂しさをつのらせるのは、愚の骨頂の最たるものではある。それでも寂しさを抑えきれなかったのは、わが日々の暮らしのなかにあって、三年という歳月の速さを痛切に実感しているからだった。東京オリンピックまでのカウントダウンは、まさしくわが命のカウントダウンにほかならない。それも今や三年という、片手指の数さえにも届かいない短さである。どうにか保証されそうなのは余命三年、すなわち八十歳あたりまでであり、その先は私自身、まったく自信がない。もちろん、わが身にかぎらずわが身内、知己(ちき)の人様の身もまた、三年の間にガラガラと様変わるであろう。すると、三年後に東京オリンピックをひかえて、テレビ映像が伝えたきのうの数々の賑々(にぎにぎ)しいイベントは、私にとっては寂しい光景だったのである。もちろん東京オリンピックにかぎらず、先々の楽しいイベントやニュースのたぐいは、もはや私には用無しのものばかりになりつつある。こんな身も蓋もないどころか不吉なことを書いて、継続だけが目的化するようでは、確かに「ひぐらしの記」は、もはや自然淘汰の潮時と言えそうである。どうもがいても抗(あらが)えないものは、生涯という命の期限と、それに向かってめぐる時(年・月・日)の速さである。そして、あらがえないことにもてあそばれて慨嘆するようでは、それこそ「死ななきゃ治らない」わが器の小ささと、わが身の浅ましさである。  

姉妹三人旅 縁(えにし)十二

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月25日(火)05時46分2秒
   しばらく境内を歩き回って元の石積みの階段を降りてタクシー
に戻った。
「松江の駅に電話して、サンライズ出雲の到着時刻を確認してお
きました。十九時二十六分だそうですから、玉造から松江に行っ
て乗られた方がいいですよ。チケットは使えるそうですから」
 タクシーの運転手さんは私たちを待っている間に列車の確認を
してくれていた。
 玉造へ行く車中で運転手さんは、
「神魂神社はいかがでしたか」
 と聞いて来た。私はすぐさま、
「ずっとその場に留まっていたい気持になりました。とにかく、
呼ばれたんだなと思いました」
 と正直な気持を言った。すると運転手さんは、
「驚きました。これで三人目ですよ」
 と、ちょっと興奮気味に答えた。
「初めの頃は、私もお客さんを案内して一緒にお参りしていたん
ですが、その中の一人の女性が鳥居をくぐったとたんに泣き出さ
れましてね。何故か分からないけれど泣きたくなったのだとか。
女性の三人客の一人が外はもう廻りたくないのでしばらくここに
居ますから、必ず迎えに来て下さいと言われて、残られたんです
よ。そして三人目はずっとその場に居たくなったと言われたあな
たですよ」
「私、きっと呼ばれたんですね。運転手さんにお会いしたのも縁
ですね。本当は出雲市に行く予定だったのに、神魂神社に案内さ
れて、去りがたい気持になったんですから、神魂神社は私に合っ
た神社なのかもしれませんね。出雲大社にお参りしてもこんな気
持にはならなかったんですよ。ずっと前から知っていたような、
懐かしい気持になりました」
 話は尽きなかった。
 

李(すもも)十七回 大沢久美子

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月25日(火)05時44分41秒
   涼子は夕食の後片付けを終えて、虚ろな思いでテレビの画面を
見つめていた。時々、彼女は画面から眼を放すと、傍らの夫に向
って、今朝見舞ってきた角田の様子を話した。
「もう三日も食事をしていないのに、ネクタリンを食べたのよ。
よっぽどあの李の味を忘れられなかったのね。とうとう、モルヒ
ネを使うことになってしまって……。明日は行けないと先生に告
げてきたけれど、無理してでも明日の朝一番で病院へ寄って、そ
れから出掛けようかしら」
 涼子の言葉を聞くと、夫は、何かに憑かれたように突然、
「おい、今から病院へ行って来よう」
 と言うと、涼子の返事を待たずに立ち上がった。
 涼子は、咄嗟にテレビの上のデジタル時計を見た。八時を過ぎ
ている。
「明日の朝より今から行ってみた方が明日、安心して出掛けられ
るんじゃないのか」
 夫は、テーブルの上のリモコンスイッチを取り上げてテレビの
電源を切った。
「こういう時には、行ける時に行っておいた方がいいんだ。何が
起こるかわからんからな」
 病院に向けて車を運転しながら、夫はまるで自分に言い聞かせ
でもするように涼子に呟いた。
 角田の容態は、今朝涼子が訪ねた時とは別人のように変わり果
てて、口を開けていびきのような荒い呼吸を繰り返していた。時
々顔面を歪め、目を見開いて身をよじり、喉の奥から絞り出すよ
うな呻き声を上げたかと思うと、今にも歯が折れそうなほど激し
い歯軋りをして痛みに耐えていた。
 涼子は、痩せ細った角田の手を握り、片手でその腕を擦った。
「先生、来ましたよ」
 涼子は、意識があるのかないのか判断も出来ない角田の顔を覗
き込んで言葉をかけた。しばらくして、角田の呻き声が止り、あ
らぬ方角を見詰めていた視点が、涼子の視線と合い、じっと見詰
め返した。それから、まるではにかむような笑みが彼の満面にじ
わっと浮かんだ。
「わかりますか。見えますか」
 涼子は思わず語りかけた。しかし、それも束の間のことで、角
田はすぐにまた身をよじり、全身から絞り出すような声を上げ苦
しみ出した。涼子はふと、角田がこんな姿を涼子に見せたくない
のではないかと思った。
「人が死ぬ時なんて、きれいごとなんか言ってはおれないんだぞ。
肉親も友人もどんなに愛し合っている者同士でも、そんなものは
何の慰めにもならんのだよ。最後はたった一人で死んでいくしか
ないんだからな」
 元気な頃に、よく角田が言っていた言葉が蘇った。
「涼子、頼むからもうぼくらしく死なせてくれよ」
 彼の言葉が聞える。
 看護婦は、モルヒネが効くまではどうしようもないと言った。
角田の体は、多分モルヒネを拒み続けているのであろう。彼は自
分らしく死ぬために、たった一人でまだ闘っているのだ。
「これがぼくらしい死に方なんだ」
 涼子は、角田の声に背中を押されるようにして病室を出た。彼
女は夫の待つ駐車場へ向かいながら、自分の中に生きている飄々
とした角田の面影を心に焼き付けた。
                          (了)

長い間読んで下さりありがとうございました。
 

感謝!

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月24日(月)12時01分36秒
   前田さん、コメントありがとうございます。望月窯から
今帰ったところです。
 「李」は埼玉文学賞受賞作ではありません。恩師田端先生が
亡くなった翌年、失意の思いで何かしなければと書き上げた
作品です。この年、流星群を立ち上げ、志を新たに出発しまし
た。埼玉文学賞は、1977年に「他人の城」で受賞しました。
小説を書くことに熱い熱い思いを抱いていた頃で、あちこちの
同人誌に所属して書き続けていたものです。遠い昔のことです
が、書くことの苦しさを味わいながら、筆を断つことができな
い苦悩の年月でした。
 

姉妹三人旅 縁(えにし)十一

 投稿者:大沢  投稿日:2017年 7月24日(月)11時48分31秒
   途中の車中で運転手さんは神魂神社について話し出した。
「イザナミの神を祀ってある日本最古の大社造りの国宝です。
観光ブームにしようと周辺の神社が集まって大々的な宣伝を
するので神魂神社も誘ったそうですが、宮司さんが観光客が
観光バスを乗り付けて来るような神社にしたくないと断った
のだそうです。道案内もしていないので、なかなか辿り着け
ないこともあって訪れる人も少ないですが、一度行ってみる
価値はありますよ」
 運転手さんの話に私はますます興味が湧いた。確かに外の神社
の道しるべは所々に目につくが、神魂神社の名前は見当たらなか
った。
やがて前方右手に樹木の茂った小高い山が見え、鳥居が見える
という運転手さんの言葉に目をこらした。周囲の木立に溶け込む
ように小さな鳥居が目に入った。左手に車が二台並んで止めてあ
る。どうやら駐車場のようだ。タクシーはそこへ停まった。
「鳥居をくぐると直ぐ右手に階段があります。急な階段ですから
気をつけて昇って下さい。私はここでメーターを落として待って
いますから、ゆっくり参ってきて下さい」
 運転手さんは何度も何度も急な石段に気をつけるようにと告げ
た。
 道路の脇に山道があり小さな鳥居が立っていた。そこをくぐる
と、今までのうだるような暑さが遠のき、涼風が吹き、セミの声
が一斉に耳に聞こえてきた。
「こっちの方はもうセミが鳴いているんだ。自宅を出るときはま
だ聞こえてなかったのに」
 私は独りごちた。
 右手に運転手さんの忠告のように、巨大な自然石を積み上げた
石段があった。かなり急勾配で、一段の高さが高い。息を切らし
て上まで昇りきるとそこは古代へタイムスリップしたような空間
が広がっていた。建物は古びていて、社務所に数人の女性がひっ
そりと座っていた。右手に杵築(きずき)社、伊勢社、熊野社と
社が三つ並んでおり、その横の建物の中に古い大きな鉄窯が安置
されており、その昔、天穂日命(あめのほひのみこと)が高天
原から降臨された時、乗って来られたと伝えられているそうだ。
 本殿の周辺には古代の神秘的な空気が漂っている。じっと見上
げていると、吸い寄せられていくような気持になる。別世界だ。
 

/511